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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)3286号 判決

控訴人兼被控訴人(以下「第一審原告」という。)

本杉なみ

本杉千里

右両名訴訟代理人弁護士

吉田米蔵

被控訴人兼控訴人(以下「第一審被告」という。)

是永太

右訴訟代理人弁護士

御宿和男

第一審被告補助参加人

同和火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

辻野知宜

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

主文

一  原判決主文第一項及び第二項を次のとおり変更する。

第一審被告は、第一審原告本杉なみに対し金一九八三万円、同本杉千里に対し金一〇〇万円及び右各金員に対する昭和五三年四月二五日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  第一審原告本杉千里の本件控訴及び第一審被告の第一審原告本杉なみに対する本件控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、第一審原告本杉なみと第一審被告との間で生じた分はこれを二分し、その一を同原告の、その余を第一審被告の各負担とし、第一審原告本杉千里と第一審被告との間で生じた分はこれを七分し、その六を同原告の、その余を第一審被告の各負担とする。

四  この判決は、第一審原告らの各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の申立て

1  第一審原告らは、その控訴につき、

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告は、第一審原告本杉なみに対し金三五二〇万円、第一審原告本杉千里に対し金七〇八万四〇〇〇円及び右各金員に対する昭和五三年四月二五日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求め、第一審被告の控訴につき控訴棄却の判決を求めた。

2  第一審被告は、その控訴につき、

原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

第一審原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

との判決を求め、第一審原告らの控訴につき控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方及び第一審被告補助参加人の主張

当事者双方の主張は、原判決七丁表四行目から五行目にかけて及び八行目の各「収入」を「所得」と訂正し、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  第一審原告ら

1  入院雑費、通院交通費  実額の証拠(甲第二号証の二、三、七、第三〇号証の一ないし一六)が存在する以上、実額で認定すべきである。

2  入院付添費  第一審原告なみの入院期間中第一審原告千里が付添いを余儀なくされ、農業収入(一日一万円)の減収を生じたから、少なくとも一日四〇〇〇円以上を基準とすべきである。

3  後遺障害による逸失利益  一〇アール当たりの経費は、水稲五万九〇〇〇円、みかん一五万一〇〇〇円、茶一七万七〇〇〇円であるから、これを第一審原告らの保有面積に換算すると計三一〇万七〇〇〇円となり、農業所得は七四三万円となる。右金額を基準に第一審原告なみの逸失利益を計算すると、ホフマン方式では四七三八万五〇〇〇円、ライプニッツ方式では四一八八万七〇〇〇円となる。

4  第一審被告は訴外森文昭(以下「森」という。)と協議して駐車場所を決め、共同して荷降ろし作業をしたから、共同不法行為の責任があり、第一審被告の過失は重大である。すなわち、第一審被告は本件車両を北方向に向けて駐車すべきであるのに逆方向に県道上に駐車したため、道路上での運行が認められていないフォークリフトが県道を横断して往復する結果となり、右駐車のため狭められた有効幅員二・五メートルないし二・八メートルの県道上が作業場と化したから、荷降ろし作業のためには誘導員を配置しなければ危険な状態であつた。特にサヤーフォークを県道上に出す直前にはフォークリフトの運転席から右方道路は見通せないから、サヤフォークを上げたまま前進することは極めて危険であるのに、森も第一審被告も左右道路の通行車両になんら注意しなかつた。したがつて、第一審被告及び森の過失は重大である。

一方第一審原告なみにとつて、フォークリフトがサヤフォークを上げたままの状態で突然県道上を横断するなどということは全く予想できないことであり、しかもサヤフォークの厚みは僅か六ないし一・五センチメートルで着色しない鋼鉄製であるから識別は困難であつて、フォークリフトの車体を発見した地点では急制動を掛けても本件事故の発生は避けられなかつた。したがつて、第一審被告の過失と比較すれば、仮に第一審原告なみに過失があつたとしても僅少であり、その割合は一割程度である。

5  第一審原告らは、本件口頭弁論終結までに森から合計三八五万円の支払を受けた。

(二)  第一審被告

1  本件事故は、本件車両の運行すなわちその装置の操作による用法とは何ら関連性がなく、その「運行によつて」発生したものではなく、専ら森の過失により生じたものであるから、自賠法三条の適用はない。

2  第一審被告は、本件事故当時道路上の通行の安全を確認しフォークリフトを誘導する役割を分担していたものではなく、荷台の積荷の上で枕木の片付け、積降ろし作業の段取りをしていたものである。サヤフォークの調節は森の判断に属することである。

3  第一審原告らは森との間で一五二五万円の支払を受けることで和解しているから、森と第一審被告との共同不法行為が成立するならば、第一審被告との関係においても右金額を超える部分は、民法四三七条の準用により免責されるというべきである。

4  (一)の5の事実は認める。

三  補助参加人の主張

1  自賠法三条の「運行によつて」とは、自動車の運行と人身事故の発生との間に因果関係を要するというのであり、「運行中」、「運行に際して」と同義に解することは許されない。本件において、荷降ろし作業と走行との連続性は自動車の「運行」に該当するか否かの判断基準にはなりえても、それのみでは自動車の運行「によつて」と評価することはできない。

2  運行供用者の損害賠償責任は自動車の固有装置の操作・使用が人身事故発生の原因となつている場合に生ずる。本件事故は森が本件車両の駐車側と反対側の木材搬入場所において操作していたフォークリフトのフォークに被害車が衝突して発生したもので、森のフォークリフトの運転上の注意義務の懈怠がその原因である。本件車両の荷台が装置に当たるとしても、荷台の操作・使用は何ら事故の原因とはならず、荷台は右荷降ろし作業の目的物の存在する場所を提供している関係にすぎないから、フォークリフトによる荷降ろし作業は本件車両の運行とは別個の事柄である。したがつて、フォークリフトによる荷降ろし作業中の事故であるからといつて、本件事故が本件車両の「運行によつて」生じたものということはできない。

四  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、第一審原告らの本訴請求は主文第一項で認容した限度で理由があると判断するものであり、その理由は次のとおり付加し、訂正し、削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一四丁裏七行目、同八行目、一六丁表一〇行目、一七丁裏七行目、一八丁表三行目の各「被告」を「原審及び当審における第一審被告」と各訂正し、一五丁裏一〇行目「停車したこと、」の次に「その際には誘導員を置かなかつたこと、」を、一六丁表八行目「するため」の次に「多くの」を各加入する。

2  同一六丁裏二行目冒頭から一七丁表五行目末尾までを次のとおり訂正する。

「右認定の事実によれば、本件事故は本件車両が一般車両等の通行する道路に駐車後直ちに開始した荷降ろし作業中発生したもので、本件車両は荷降ろし終了後直ちに出発する予定であつたから、右荷降ろし作業と本件車両の駐停車前後の走行とは連続性があり、本件事故は本件車両の運行中の事故であることは明らかである。そして、本件事故は、前記のとおり被害車と森が運転操作するフォークリフトのフォーク(爪)とが衝突して発生したものであるが、本件車両は、フォークリフトによる荷降ろし作業が必然的に予定されていたもの、すなわち本件車両に付属された荷台から直接フォークリフトによる荷降ろしが出来るようになつており、更にフォーク挿入のため前出枕木を置いたものであつて、この仕組みを利用し、三回目の荷降ろしのためフォークリフトを一旦停止し、道路上に突き出たフォークの高さを調整中に生じた事故であり、しかも、第一審被告は、本件車両を搬入場所とは反対側の道路左側端に駐車させたため、道路上運転することが許されていないフォークリフトが道路を横断して往復することとなり、フォークリフトの運転者森と共同して本件車両の右側方道路上において他の通行車両の交通の妨害となる方法で、事故発生の危険性の高い状況のもとで荷降ろし作業を行つたものである。してみれば、右のような態様のもとにおいて荷降ろし作業が行われる場合、フォークリフトの運転操作と本件車両の運行とは密接不可分の関係にあり、本件車両の運行と本件事故との間の因果関係を否定することはできない。したがつて、本件事故は本件車両の運行によつて生じたものと解するのが相当である。」

3  同一八丁裏一行目「四七四六万六四七九円」を「五二〇一万七四二三円」と、同二行目「一四一万二〇三六円」を「一四二万二五六三円」と、同三行目「二二八六円」を「二〇一三円」、同九行目「同」を「原審における第一審原告」と各訂正する。

4  同一九丁表一行目「記載のとおり」の次に「(但しホの浜松医科大学医学部附属病院(以下「浜松医大」という。)については昭和五三年一〇月三日、同月六日、同年一一月一六日の三回)」を加入し、同七行目「一四三〇円」を「一一五七円」と訂正する。

5  同一九丁裏七行目末尾の次に次のとおり加入する。

「なお、第一審原告らは入院雑費として四八万三九八八円を支出したと主張し、原審及び当審における第一審原告千里の供述により真正に成立したと認められる甲第二号証の二、第三〇号証の一ないし一六には右主張にそう部分があり、千里は支出の都度甲第三〇号証の一ないし一六に記載し、これを甲第二号証の二に整理したものであると供述する。

しかしながら、その記帳の正確性については必ずしも信用し難いのみならず、右甲二号証の二記載の入院雑費中には家族の食事代等入院しない場合でも通常支出するものが含まれていることが認められるから、その全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。したがつて、第一審原告ら主張事実を裏付ける証拠はない。」

6  同一九丁裏八行目「一六万一四〇〇円」を「一七万二二〇〇円」と、同末行目、二〇丁表九行目の各「原告」を「原審における第一審原告」と各訂正し、同六行目「支出したこと」の次に「、原審における第一審原告千里本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の七及び同供述によれば第一審原告なみは浜松医大、八木病院の通院のため高速道路利用料金等として少なくとも一万八〇〇円を支出したこと」を加入する。

7  同二〇丁裏四行目「八四万九〇〇〇円」を「七六万九五〇〇円」と訂正し、二一丁表三行目末尾に次のとおり加入する。

「なお、第一審原告らは右入院付添費を一日四〇〇〇円を基準として算定すべきであると主張するが、第一審原告千里が右二五一日の間常時付添看護に従事していたとは認め難いから、前記一日三〇〇〇円の基準額は相当である。」

8  同二一丁表四行目「九万六〇〇〇円」を「一万六五〇〇円」と、同五行目冒頭から同一〇行目「病院に」までを「前認定のとおり第一審原告なみは浜松医大等に少なくとも一一回」と各訂正し、同丁裏二行目「右浜松」から同四行目「六四日間」までを削除し、同六行目から七行目にかけて「九万六〇〇〇円」を「一万六五〇〇円」と、同八行目「三七二〇万五四四三円」を「三三八二万五三六〇円」と、同九行目「原告」及び同末行目「同」を各「原審における第一審原告」と各訂正する。

9  同二二丁表一〇行目冒頭から同丁裏一行目「よることとし」までを「しかし、第一審原告らは右農業収入に対応する経費実額に関する証拠を提出しないから所得の実額を算定することはできず、推計によらざるをえない。ところで」と、二三丁表五行目「なることは」から同一〇行目末尾までを「なるが、右数値は静岡県内の農業経費の平均値であつて、これを直ちに第一審原告らに適用することは相当ではないから、右の数値をも参考とし、かつ当審における第一審原告千里の昭和五九年分の申告所得金額は茶の木の改植のため四〇〇万円位であつたとの供述を合わせると、第一審原告らの年間所得金額はおおむね六〇〇万円、そのうちなみの分を二四〇万円と認定するのが相当であり、所得金額がこれを超えることを認めるに足る的確な証拠はない。」と各訂正する。

10  同二三丁裏六行目「三七二〇」から同七行目「切捨)」までを「三三八二万五三六〇円」と、同八行目の算式を「2,400,000×14.0939=33,825,360」と、同九行目及び二四丁表二行目の各「八〇〇万円」を各「一六〇〇万円」と各訂正し、二三丁裏末行目「内容」の次に「(特に両眼失明の状況にあること)」を加入する。

11  同二五丁表八行目「原告」を「原審における第一審原告」と、同丁裏一〇行目冒頭から二六丁表一行目「四割」までを「というべきである。もつとも、フォークリフトが有効幅員の狭い道路上に長さ一・五メートルのフォークを路上に突き出し高さの調整をするなどということは自動車運転者にとつて予期し難く、フォーク部分だけでは比較的目にとまりにくいと考えられるから、第一審原告なみのフォークの発見が遅れた点に過失があるとしても、前認定のとおり誘導員を置かず、フォークリフトの適切な誘導を怠つた第一審被告の過失の程度と対比するならば、第一審原告なみにつき過失相殺として前記三の損害額の三割」と、同四行目から五行目にかけて「二」から「切捨)」までを「三六四一万円(万円未満切捨)」と、同五行目から六行目にかけて「一四四万円となる。」を「一六八万円と認定するのが相当である。」と各訂正する。

12  同二六丁表九行目から一〇行目にかけて「は当事者間に争いがない」を「、森の支払額が本件口頭弁論終結当時三八五万円であることは当事者間に争いがなく、右金額は第一審原告ら間の合意に従い第一審原告なみが三〇八万円、同千里が七七万円取得したものというべきである」と、同末行目「一二〇九万九八八七円」を「一八〇三万円」と、同丁裏一行目「一一七万円」を「九一万円」と各訂正し、同行目の次に次のとおり加入する。

「なお、第一審被告は、第一審原告らは森と一五二五万円で和解したから、第一審被告との関係においても民法四三七条の準用により右金額を超える部分は免責されると主張する。しかし、前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告らは森と訴訟上の和解をしているが、これは森との関係でのみ一部免除の約定を結んだものにすぎず、共同不法行為者である第一審被告に対する関係においては、なおそのまま請求を維持する意思であつたことは明らかであるから、第一審被告に免除の効力は及ばないと解すべきであり、同条を適用ないし類推適用する余地はない。よつて、右主張は理由がない。」

13  二六丁裏六行目「一二〇万円」を「一八〇万円」と、同六行目から七行目にかけて「一一万円」を「九万円」と各訂正する。

二以上によれば、第一審原告らの本訴請求は、同なみについては一九八三万円、同千里については一〇〇万円及び右各金員に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五三年四月二五日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないといわなければならない。

よつて、原判決主文第一項及び第二項を主文第一項のとおり変更し、第一審原告千里の本件控訴及び第一審被告の第一審原告なみに対する本件控訴を各棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小堀 勇 裁判官時岡 泰 裁判官吉野衛は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官小堀 勇)

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